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- 中国 海軍力の大幅増強 狙いは日本…領有権争いに布石
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2007.02.10 Saturday産経新聞 平成19(2007)年2月9日
http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070209/chn070209000.htm
【ワシントン=古森義久】中国海軍の研究では米国でも有数の権威とされる米国防大学のバーナード・コール教授は「中国の膨張する海軍パワー」と題する論文をこのほど発表し、中国の海軍力の大幅増強の目的は台湾海峡での紛争に備えることとともに、東シナ海での尖閣諸島などをめぐる日本との領有権争いに軍事的に対処することだという見解を明らかにした。
同論文は国立ウッドローウィルソン国際学術研究センターの特別報告書最新号で公表された。
コール教授は同論文でまず、中国当局が目覚ましい経済成長の成果を軍事増強に投入するなかで、人民解放軍全体では海軍の強化が最も顕著だとしている。
同論文によると、海軍のなかでも潜水艦の増強が最優先され、すでにロシアから購入したディーゼル機動では世界でも最高性能とされるキロ級が12隻、国産の「宋」級10隻がすでに配備されたほか、2004年夏には新鋭の「元」級潜水艦が開発された。原子力潜水艦では従来の「漢」級5隻に加えて「093」級が少なくとも2隻、配備された。
さらに注目されるのは、中国海軍がこれまで長距離弾道ミサイル発射能力を持つ潜水艦の「夏」級の実戦配備に成功していなかったのに対し、いまやロシアの支援を得て「094」級の弾道ミサイル原潜の建造を始めたことだという。
コール論文はこのほか中国海軍が海上艦艇や海軍航空部隊、海陸両用戦闘部隊などを増強する実態を報告している。
同論文はさらに中国軍がなぜこの種の海軍力の大幅増強を図るのか、その目的や動機について(1)台湾が独立への動きをとった場合、武力で台湾を制圧し、米軍の介入を阻むための能力を保持すること(2)東シナ海での尖閣諸島などに対する中国主権の主張への日本側の動きに軍事的に対処する能力を保持すること(3)中国自身に不可欠なエネルギー資源を輸入するための海上輸送路の安全を確保する能力を保持すること−などを主要点としてあげている。
同論文は以上を「中国海軍の近代化」という大幅な増強の主要な理由だと述べ、なかでも日本への対応は中国にとって「ほぼ台湾有事への対処と変わりのない重要性を持つ戦略的な海上案件への懸念」と位置づけている。東シナ海で実際に中国が日本と軍事紛争を起こす場合のシナリオについて同論文は、「日本側は日米安保条約に基づき米軍の支援を求めるだろうから、中国側は台湾有事への対応と同様に米海軍の介入を抑止し、阻止し、場合によっては戦闘をも辞さない態勢をとらねばならない」と述べている。
しかし同論文は、その種の日中軍事衝突で中国側が米軍の介入を阻むことは台湾有事の際よりもずっと困難だろうとして、「米軍基地が日本の国内や至近の位置にあり、日米安保条約での明白な共同防衛規定に加え、米側の日本防衛への責務感が台湾に対するよりもはるかに強い」などという諸点を理由としてあげている。
(2007/02/09 08:01)
- 沖縄・尖閣沖、中国調査船がEEZ内調査活動
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2007.02.07 Wednesday読売新聞 平成19(2007)年2月4日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070204i312.htm
尖閣付近に中国調査船、外務省が抗議
4日午前9時半ごろ、沖縄県の尖閣諸島・魚釣島(うおつりじま)から西北西約30キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内で、中国の海洋調査船「東方紅2号」(3235トン、全長96メートル)が調査活動を行っているのを、第11管区海上保安本部(那覇市)の巡視船が確認した。
同船は調査活動を繰り返した後、同日午後10時8分にEEZ外に出た。
中国側は鹿児島県・奄美諸島西側などの東シナ海で、1月18日〜2月15日の間に調査を行うと日本側に事前通報していた。しかし、東方紅2号は、通報した海域より南西に約300キロ離れた地点で確認され、巡視船が無線などで調査中止を求めたが、調査船からの応答はなかった。
海保によると、東方紅2号は航行と停止を繰り返し、船尾などから、プランクトン採取用の網や観測機器とみられる機材を海中に入れながら断続的に調査を続けた。
東方紅2号は昨年7月、事前通報なしに尖閣諸島近くのEEZ内を航行しているのが確認され、政府が中国側に抗議した。
◇
外務省は4日夕、中国の海洋調査船の活動について在京中国大使館と中国外務省に強く抗議し、活動の即時中止を申し入れた。
中国側は「至急、事実関係を確認する」と回答した。
(2007年2月4日23時35分 読売新聞)
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産経新聞 平成19(2007)年2月4日
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070204/jkn070204006.htm
EEZ内に中国調査船 海保の警告に応じず
4日午前9時半ごろ、尖閣諸島・魚釣島西北西約30キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内で、中国の海洋調査船「東方紅2号」(3235トン)が調査活動を実施しているのを第11管区海上保安本部(那覇)の巡視船が発見、調査を中止するよう警告した。調査船は応答せず、調査を継続している。
11管本部によると、調査船はEEZ内を南へ航行しながら網や筒状の器具を海中に投入。海水などを採取する科学的調査とみられる。
東方紅2号は昨年7月にも日本のEEZ内に進入し、同様の調査活動を行った。
(2007/02/04 19:04)
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読売新聞 平成19(2007)年2月5日
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/ne_07020508.htm
沖縄・尖閣沖、中国調査船がEEZ内調査活動…11管中止要請
4日午前9時半ごろ、沖縄県の尖閣諸島・魚釣島から西北西約30キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内で、中国の海洋調査船「東方紅2号」(3235トン、全長96メートル)が航行しているのを、第11管区海上保安本部(那覇)の巡視船が確認した。調査船は調査活動を繰り返した後、同日午後10時8分にEEZ外に出た。
中国側は、鹿児島県・奄美諸島の西側などの東シナ海で、1月18日〜2月15日の間に調査を行うと日本側に事前通報していた。しかし、調査船が確認された海域は南西に約300キロ離れており、巡視船が無線などで調査中止を求めたが、調査船からの応答はなかった。
海保によると、調査船は航行と漂泊を繰り返し、船尾などから、プランクトン採取用の網や観測機器とみられる機材を海中に入れながら断続的に調査を続けた。
東方紅2号は昨年7月、事前通報なしに尖閣諸島近くのEEZ内を航行しているのが確認され、政府が中国側に抗議した。
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産経新聞 平成19(2007)年2月5日
http://www.sankei.co.jp/seiji/seikyoku/070205/skk070205003.htm
中国の無断海洋調査に強い不快感 官房長官
塩崎恭久官房長官は5日午後の記者会見で、中国の海洋調査船が尖閣諸島近海の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、事前通報した水域と異なる水域で調査を行ったことに関して、「現時点では中国から反応や回答はない」と述べ、詳細な説明がないことに重ねて強い不快感を示した。
塩崎氏は、東京と北京でそれぞれ4日午後、外交ルートを通じて強く抗議を申し入れ、中国側から「至急事実関係を確認する」との回答があったことを紹介。「事前通報の仕組みがあるにもかかわらず、回答がないというのは、愉快なことではない」と強調した。
(2007/02/05 20:14)
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人民網 平成19年2月6日
http://j.peopledaily.com.cn/2007/02/06/jp20070206_67613.html
日本が釣魚島調査を騒ぎ立てたことに強い不満を表明
中国が実施した釣魚島(日本名・尖閣諸島魚釣島)近海での科学調査について日本側が騒ぎ立てた問題で、外交部アジア司の担当者は5日、北京の日本大使館の職員に申し入れを行った。
外交部ウェブサイトによると、同担当者は「釣魚島およびその付属島嶼は古来より中国の固有領土であり、中国はこれに対し争う余地のない主権を有する。中国側船舶は釣魚島近海で通常の海洋調査を行っていただけで、これは中国の正当な主権の行使である」と指摘。「中国は日本側がこの件を騒ぎ立てたことに対し、強烈な不満を表明する」と述べた。(編集NA)
「人民網日本語版」2007年2月6日
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産経新聞 平成19(2007)年2月6日
http://www.sankei.co.jp/seiji/seikyoku/070206/skk070206002.htm
中国の尖閣領有主張に首相、強い不快感
中国の海洋調査船が尖閣諸島・魚釣島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で事前通報なしに調査活動をした問題について、塩崎恭久官房長官は6日午前の記者会見で、中国政府が5日夕に日本側の抗議に対し、尖閣諸島の中国領有権を主張する回答を日本側に伝えたことを明らかにした。
これに関連し、安倍晋三首相は6日昼、「尖閣諸島は日本固有の領土だという従来の立場にまったく変更はない。日本が納得できる説明を求めたい」と、強い不快感を示した。首相官邸で記者団に答えた。
(2007/02/06 12:29)
- 技術専門家会合設置へ…日中ガス田協議
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2007.02.07 Wednesday読売新聞 平成18(2006)年7月10日
http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_06071012.cfm
【北京=東一真】東シナ海の天然ガス田開発をめぐる6回目の日中局長級協議が9日、終了し、東シナ海の地下構造などについて情報交換する技術専門家会合を、新たに設置することで合意した。
協議促進のために地下の状態などに関する共通認識が必要との観点から日本側が提案し、中国側が受け入れた。日本側は資源エネルギー庁、中国側は国家発展改革委員会を中心に構成し、次回の日中局長級協議に合わせて第1回の会合を開く見通しだ。
また、東シナ海での船舶の航行や航空機の活動について、海上保安庁と中国海洋局が連絡体制を強化するなどして、「不測の事態」を回避する枠組みをつくることでも合意した。
一方、中国の海洋調査船が今月2日、事前通告なしに日本の排他的経済水域(EEZ)内を航行した問題で、日本側が「日中協議に悪影響を及ぼす」と、中国側に再発防止を求めた。
日中それぞれが提案しているガス田の共同開発については、「(双方の立場に)理解が深まったが、依然として立場に差がある」(佐々江賢一郎・外務省アジア大洋州局長)ため、歩み寄りは見られなかった。
日本側はこれまで翌檜(あすなろ)(中国名・龍井)、白樺(同・春暁)など日中中間線周辺の四つのガス田の共同開発を提案。中国側は、翌檜ガス田の周辺海域と尖閣諸島北側海域での共同開発を提案している。
(2006年7月10日 読売新聞)
- “宝の海”狙う中国 資源戦略の壮大
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2007.02.07 Wednesday東シナ海の「ガス田」開発をめぐる日中間の対立は、双方の主張の隔たりが大きく、“一触即発”の状態が続いている。だが、中国側の関心は天然ガスや石油だけではないようだ。中国側がこれまで海洋調査を行ってきた東シナ海や太平洋側の日本近海には、ほかにも豊富な天然資源が眠っている。「未来の鉱石」と呼ばれる海底鉱物資源だ。
本誌 中国問題取材班/撮影 読売新聞写真部
東シナ海で中国が開発を進める天外天ガス田=日本名「樫」。生産開始が確認された9月中旬よりも、噴き上がる炎は弱くなっている(2005年9月30日撮影)
日本は「海洋国家」だが、その海を隔てて、すぐ隣に多くの国々がひしめき合っていることを意識する日本人は少なかった。当たり前のことなのに、忘れられていた意識を多少なりとも呼び起こしたのが、今回の東シナ海での問題だといえるだろう。
下図を見てほしい。日本が主張する排他的経済水域(EEZ=水中や海底・地下の天然資源などを開発・利用できる、沿岸200カイリの水域)のすぐ外側には、韓国はもちろん、中国、台湾が近接する。与那国島と台湾とは、まさに目と鼻の先だ。フィリピンも遠くはない。
海といえば、日本人には「魚」のイメージが強いが、日本に接する他国、とりわけ中国の関心は、海といっても、もっと深いところ、すなわち海底の天然ガスや石油に向いていた。そして、海の境界線が確定しないなか、うかうかしていると、日本が権利を主張し得るものまで持っていかれかねないことを、今回の問題は浮き彫りにしたのである。
しかも、中国が関心を持つ日本近海には、ガスや石油だけでなく、将来的に有望な資源が豊富にあるという。それについては後述するとして、ひとまず焦点になっている東シナ海のガス田問題をおさらいしておこう。
現在、日中間で問題になっているのは、東シナ海で中国が開発中の四つのガス田。うち一つは、9月中旬、生産開始を示す炎が確認された。
四つは、いずれも日中中間線(日本が主張するEEZの中国との境界線)近くの中国側にあり、日本の調査では、これらのガス田は、海底で日中中間線をまたいでいるか、その可能性が高い。エネルギー資源獲得に躍起となっている中国側が、このまま開発を進めれば、日本側の天然ガスまで吸い取られかねない。
そのため、昨年10月から日中間での協議が断続的に行われてきた。そして、今月1日まで開かれた3回目の局長級協議で、日本側は四つのガス田についての共同開発を初めて提案。中国側は、
「真剣に検討する」
として、中旬以降の次回協議で回答を出すことを約束した。
だが、先行きは不透明だ。なぜなら、前回5月の協議で、中国側は中間線の日本側海域での共同開発を提案しているのだが、この海域とは、中間線から南西諸島(沖縄本島などを含む列島)に程近い「沖縄トラフ」までの広大な海域を指す(下図の濃い赤色部分)。日本側の主張とは全く食い違っているのだ。
ちなみに、トラフとは、水深5000メートル未満の帯状の海のくぼみのこと。沖縄トラフ(水深700〜2000メートル)は南西諸島に沿って、幅約100キロ、長さ約1100キロにわたって続いている。
中国側は以前から、この沖縄トラフまでの大陸棚について権利を主張しており、中国側が提案した共同開発の範囲は、この主張に沿ったものだ。しかし、この主張を認めれば、たとえ共同開発とはいえ、南西諸島のすぐ近くまで中国に開発の権利を認めることになり、日本側としては容認できるものではない。
あいまいな国際法も紛糾の一因
それにしても、中国側が、南西諸島の間近まで大陸棚の権利を主張する理由は、何なのだろうか。日本人の常識からすれば、全くの暴論とも思えるのだが、国際法的には根拠がないわけではないという。
その根拠は、1969年の国際司法裁判所(ICJ)の判決で示された、大陸棚の「自然延長論」という考え方だ。芹田健太郎・愛知学院大学教授(国際法)は、こう説明する。
「ドイツ、デンマーク、オランダが北海の大陸棚をめぐって争った裁判の判決で、ICJは次のような考え方を示した。大陸棚は沿岸国の陸地から海中に向かって自然の延長をなしているので、沿岸国は陸地の部分の主権と同じように大陸棚の主権も有すると。要するに、大陸棚は大陸のものというわけです」
確かに、東シナ海の大陸棚は中国大陸から続いている。こう聞くと、中国の主張に理があるように見えるが、そうとは限らないという。日本の主張は、82年の国連海洋法条約に基づくものだからだ。
「日本の主張は、EEZの境界線(日中中間線)の下で大陸棚の権利も区切るというものですが、これは国連海洋法条約に合致した考え方。大陸棚よりEEZを優先するというのが、国際的な流れになっているのです」(芹田教授)
ただ、中国の論拠である「自然延長論」も国際的に否定されたわけではないという。実にややこしいのだが、要するに、国際法上、EEZの境界線の下で大陸棚の権利を区切る考え方と、「自然延長論」とが併存していて、そのあいまいさが、日中の問題をこじらせている側面もあるのだ。
ただ、芹田教授は、
「島にも大陸棚が認められている点を忘れてはいけない。中国は沖縄トラフで大陸棚が終わると主張しているが、日本側は、中国大陸から続く大陸棚が南西諸島の南の南西諸島海溝まで続いていると見ている。そうなると、一つの大陸棚を両国が共有していることになるので、『大陸棚の権利は共有する日中の中間線で区切る』という日本の考え方が妥当ということになります」。
実際、地質学の専門家の調査でも、大陸棚を形作っている「大陸性地殻」は沖縄トラフで切れてはおらず、南西諸島海溝まで続いているという。
沖縄の海底下に鉱物資源
もちろん、中国側が大陸棚に強い関心を示すのは、単に国際法の解釈問題からではないだろう。
日中中間線から日本側の大陸棚には、有望な石油・ガス田が数か所以上存在し、日本の国内消費量の1年半分にあたる30億バレル相当の石油・天然ガスが埋蔵されているとの試算もある。13億人を抱えて経済成長を目指す中国は、国内石油生産が頭打ちになっていることもあり、エネルギー資源確保が至上命題。のどから手が出るほど欲しいに違いない。
さらに、油ガス田以外にも、中国が関心を持つ豊富な鉱物資源が日本近海には眠っているというのだ。
なかでも注目されるのが、沖縄トラフに点在する「海底熱水鉱床」だ。この鉱床は、海底の地下から高温の熱水に溶け込んだ重金属類がわき上がり、硫化物として塊や泥状に固まったもの。その中には金、銀、銅、鉛、亜鉛、鉄など貴重な金属が豊富に含まれているという。
沖縄県の委託で昨年度、社団法人「海洋産業研究会」が行った海洋資源開発の基本調査によると、沖縄本島の北西側と与那国島の北方の沖縄トラフに計8か所の「熱水活動域」が確認されている。
同調査に携わった木村政昭・琉球大学教授(海洋地質学)は、
「沖縄トラフの場合、鉱床が地層のように広がっている可能性がある。これまでの調査は海底の表面のみなので、ボーリングをしないと埋蔵量は分からないが、おそらく世界的に見ても有望な鉱床といえるでしょう」。
沖ノ鳥島(東京都小笠原村)の東小島(奥)と灯台を設置する予定の観測施設(本社機から/2005年3月28日撮影)
東シナ海ではないが、中国が頻繁に海洋調査を行ってきた沖ノ鳥島周辺など太平洋側の深海底にも、有望な鉱物資源があるという。
代表的なのは、希少鉱物であるマンガンやコバルトを豊富に含む「マンガン団塊」だ。団塊は、水深4500〜6000メートルの深海底に鉱物の塊として転がっている。マンガンは鉄鋼生産、コバルトは特殊鋼などの生産に欠かせない。
メタンを主成分とするガスが水と混ざって氷結した「メタンハイドレード」と呼ばれる資源も、太平洋側の海溝斜面にあるという。
「メタンハイドレードは将来、石油に代わるエネルギー源になる可能性もあり、相当な資源価値があるとみられている。こうした深海底資源は将来、掘削技術が発達すれば、活用が可能。中国が太平洋側で頻繁に海洋調査をしているのも、こうした資源に関心があるからではないでしょうか」(木村教授)
中国が昨年から、沖ノ鳥島を、島ではなくて「岩」だと主張し始めたのも、この海底資源の存在と関係があるかもしれない。「岩」の場合は、国連海洋法条約でEEZを持てないとされており、日本のEEZでなくなれば、中国が資源を利用することが可能になるからだ。
ちなみに、2003年12月に中国政府が発表した「中国の鉱物資源政策」と題する白書には、中国政府の海底鉱物資源に対する並々ならぬ関心が示されている。同白書は、中国は人口が多いため、1人あたりの鉱物資源保有量は世界的にも低い水準にあると指摘したうえで、海上油ガス資源の探査・開発と他の鉱物資源に関する研究を強化し、国際海底鉱物資源の探査・開発にも積極的に参画していく――と、うたっているのだ。
海底火山にも関心示す
一方、中国側の関心は、海底火山の活動にも向けられているとの見方がある。中国の海洋調査の動向をチェックしている情報当局者は、
「中国の調査船は、小笠原諸島近海など海底火山活動の活発な地域にも出没している。海底火山が爆発して、島が出来れば、最初に見つけた国が領土として主張できる。太平洋への出口を日本列島に阻まれていると感じている中国にとって、太平洋側の小さな島であれ新領土ができれば、大変な価値がある。台湾有事の際に、米軍の動きを阻む軍事上の拠点にすることもできるからです」。
いずれにせよ、日本近海の海洋に異常なまでの関心を示す中国に対し、日本は、どう対処すればいいのか。
現在、焦点になっている東シナ海の問題については、
「試掘に向けて粛々と進むしかない。安全確保のために必要な法整備も行う必要がある」(日本エネルギー経済研究所の十市勉・常務理事)
といった意見が有力になっている。
ただ、これまで述べてきたように、問題は東シナ海の日中中間線付近だけではないということだ。前出の木村教授によると、
「中国は海洋研究所をいくつも持ち、80年代から活発に海洋資源の研究を行っている。海洋調査船の数も多く、海洋大学で優秀な人材を育成している」。
それに対し、日本の現状はお寒いと、木村教授は指摘する。
「日本は海洋国家といいながら、水産(漁業)関係ばかりに力が注がれ、海洋資源の研究は重視されていない。大学の研究費も削られる一方で、大阪城の外堀が埋められていくような感じ。このままでいいのでしょうか」
日本が海洋国家として、21世紀をいかに生き延びていくのか。20〜30年先を見据えた長期的な戦略が求められている。
- 「真の脅威」中国に目を向けない新防衛大綱の行方
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2007.02.07 Wednesday「正論」平成16年12月号
http://www.sankei.co.jp/seiron/koukoku/2004/0412/ronbun1-1.html
「真の脅威」中国に目を向けない新防衛大綱の行方(1)
帝京平成大学教授 米田建三
大綱案の致命的欠陥
小泉首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、十月四日、報告書をまとめ、首相に答申した(本稿末尾に報告書骨子)。この報告書を踏まえ、政府は年末までに新たな「防衛計画の大綱」を策定することになる。
報告書が、「はじめに」でも記述しているとおり、「統合的安全保障」の名のもとに、安全保障に国家の総力をあげて取り組むことを明記している点、また、国際活動をこれまでの第三者的な「国際貢献」から、重要な自衛の手段と意義付け直した点については大いに評価できる。
更に、総理の下に置かれた懇談会として、憲法の枠組みの中で検討することを前提としつつも、憲法問題について付言するとともに、特に、武器輸出三原則の見直しを具体的に記述した点は、画期的ともいえよう。しかし、それらの「前進」を帳消しにしかねない根本的な欠陥があるのだ。
まず指摘しなければならないのは、本報告書に「国益」に関する記述がまったく見られないことである。このため、我が国防衛政策の目的に関する記述が全般的に総花的になり、安全保障・防衛を見るときの「軸」が定まっていない。
それが最も端的に表れているのが、安全保障政策の前提となる安全保障環境の見方である。米国が最も重視して対応すべきとしているテロ、大量破壊兵器の拡散等のグローバルな脅威と、北東アジア特有の北朝鮮、中国などの脅威を同列に扱っているのである。同列というよりも寧ろ、報告書全般を読むと、前者の「トレンドとなっている脅威」への対応を主眼に防衛力のあり方が論じられている。
国益の観点からみれば、我が国の安全を直接脅かす北東アジア特有の脅威に軸足を置きつつ、その上で、テロ、大量破壊兵器の拡散等の新たな脅威にも配慮するというのが基本的な立場であるべきだ。国際社会や米国の要請があろうとも、国益にそぐわなければ応じない選択もありうるのが、独立主権国家の立場だ。
国家の防衛力は「国際ボランティア部隊」ではない。我が国の生存・安全を脅かす脅威にこそ、国家機構の核心である軍事力をもって対処するのが基本である。その態勢が整っていることが、国力のバックボーンでもある。本報告書はトレンドに浮かれたのか、国防に対する基本的認識に欠陥があると指弾されてもやむをえまい。
第一部の「二十一世紀の安全保障環境」で、守るべき価値として国民の生命・財産はあげられているが、国家の主権・独立が欠落しているのはどういうわけか。前二者と不可分ではないか。また多機能弾力的防衛力の考え方を提起するにあたり、現在の国際情勢を緊張緩和が進んでいるとしているが、北東アジアの情勢だけをみても、大きな誤りといわざるをえない。まさに、国益の概念を軽視する考え方と、軌を一にしているものだ。
くわえて、絶対に看過できないのは、今や子供にも常識となった軍事覇権主義国家・中国の脅威を明記していない点だ。懇談会で、当局が中国の脅威の実情を説明したにもかかわらず、外交的配慮が働いた結果だといわれているが、この一点をもって、「我が国として初めて安全保障戦略を規定した」報告書の名誉は、雲散霧消してしまった。懇談会で握りつぶされた中国の脅威を、ここにあらためて指摘しておこう。
「900キロ制海・制空権確保」という新目標の脅威
中国は伝統的な大国意識=中華思想をベースに、日本をはじめとする周辺諸国に対し、厚かましくも露骨な領土的野心を露わにしている。そのため、近年、軍事力の「量」から「質」への転換を図り、ゲリラ戦重視の「人民戦争戦略」から近代戦に対応できる正規戦主体の態勢へ移行している。
《弾道ミサイル戦力》大陸間弾道弾を含め約五百九十基。その内、中距離弾道ミサイル百基以上は日本全域が射程圏内。約四百五十基の短距離弾道ミサイルは、台湾正面に配備の模様。さらに新型ミサイルを開発増強中。
《陸上戦力》七個軍区、六十三個師団(約百七十万)。機動力、即応性を重視した快速反応部隊を編成。特殊部隊も優先的に整備し、空挺軍及び海兵旅団そのものを特殊部隊として運用。
《海上戦力》七百四十隻の艦艇を配備。ロシアから、対艦ミサイル能力向上のためにソブレメンヌイ級駆逐艦、また静粛性向上のためにキロ級潜水艦を導入など、近代化を実施。
《航空戦力》旧式機が主力であったが、ロシアから、一九九二年以降、対空能力向上のためスホーイSU27戦闘機を導入(一九九八年よりライセンス生産、現有百機)。また、二〇〇〇年以降、同機に対地能力を付与したスホーイSU30戦闘機を導入(現有五十八機)。計、約二千四百機の作戦機を配備。さらに空中給油、早期警戒管制等の能力の獲得を目指している。
国防費をみても、一九八九年より二桁成長を継続、二〇〇三年国防予算は、前年比約一割増の日本円換算約二・六兆円だった。
まさにこの軍事力を背景に我が国の抗議を無力化・無視して、尖閣列島に触手を伸ばし、我が国近海における海洋調査活動や中国海軍艦艇による各種活動を行っているのだ。また、日中中間線上のガス田採掘問題もある。これらを脅威と言わずに、何というのか。
いつの日か、またどういうレベルの状況で発動されるのか判らぬ、アメリカまかせの日米安保条約頼みで事足りはしない。現在、国益は着々と侵されつつあるのだ。
中台関係においては、台湾の独立を阻止するため、中国は武力攻撃も辞さずとの姿勢を明らかにしている。台湾が中国の制圧下に入ることは、何を意味するのか。まずは、中国がアジア・太平洋地域に軍事的覇権を確立するための大きな一歩になるだろう。また我が国にとっては、我が国への物資の海上輸送ルートを、いつでも遮断されうる事態を招く。
中国軍は今年七月、台湾をにらんでの陸海空三軍による合同軍事演習を実施したが、これは台湾独立の予防的な訓練というより、積極的で攻撃的なものであり、制海・制空権確保を視野に入れ、電撃的な攻撃により米国の介入を阻む演習であった。この演習で注目すべきは、大陸海岸線から九百キロメートルの制海・制空権確保が目標とされたことである。
まさに沖縄本島までが約九百キロであり、尖閣諸島周辺や在日米軍基地等も対象になる。このように、我が国の南西諸島に対する中国の脅威が顕在化しつつあるのだから、今日、陸上戦力の配備がない石垣・宮古等を含む南西諸島の防衛力強化を、懇談会報告書がうたっても何ら不思議はないのである。
報告書が中国の脅威に目をつぶった罪は重い。政府の新防衛大綱決定までに、自民党内外の声が高まって、修正されるかどうか注視したい。
→つづく
【略歴】米田建三氏 昭和二十二年(一九四七年)、長野県生まれ。横浜市立大学商学部卒。徳間書店に入る。代議士秘書、横浜市議を経て平成五年の衆議院選挙で初当選。当選三回。同十四年十月、小泉改造内閣で内閣府副大臣。拉致問題にも精力的に取り組んできた。同十六年一月から現職。安保政策・国際関係論の講座を担当。
「正論」平成16年12月号
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「正論」平成16年12月号
http://www.sankei.co.jp/pr/seiron/koukoku/2004/0412/ronbun1-2.html
「真の脅威」中国に目を向けない新防衛大綱の行方(2)
帝京平成大学教授 米田建三
「多機能弾力的防衛力構想」の美名に潜む本音は
次に報告書各項の問題点をひろってみよう。
第一部1の「二十一世紀の安全保障環境」で、北朝鮮の脅威として例示されたのが大量破壊兵器開発や弾道ミサイル開発・配備のみであり、約十万人いるといわれる特殊部隊についての記述がない。北朝鮮のミサイルは政治的に大きなインパクトを持つが、軍事的な脅威としては、我が国の重要施設等に対する特殊部隊による攻撃も重要かつ喫緊の課題である。北朝鮮から工作員が頻繁に侵入していることは、拉致事件で証明済みではないか。
また同2の「統合的安全保障戦略」の考え方を展開するに当り、従来の「基盤的防衛力」の概念の見直しを訴え、「多機能弾力的防衛力」の概念を提起している。「基盤的防衛力」とは、ひと言でいえば、「特定の軍事的脅威に直接対抗しないが、力の空白となって不安定要因とならないための必要最小限度の防衛力」だ。いわば、空き部屋ではまずいから物を入れておくといった類の話で、極めて軟弱ではあるが、一応、国家間の紛争に備える考え方が基底にはあった。
ところが本報告書は、前述したように、国際情勢を緊張緩和が進んでいると誤認したうえに、非国家主体のテロなど(実はほとんど国家が背景に存在)の脅威の増大をもって、「基盤的防衛力」の考え方を見直すというのだ。我が国周辺の国際環境においては、引き続き国家間紛争の抑止が重要な部分を占めることを考えると、国家間紛争の抑止の重要性を過小評価していると言わざるをえない。むしろ、北朝鮮特殊部隊やミサイルの脅威、中国の離島侵攻の脅威に対処して、それに対する所要防衛力の上積みの必要性を明示すべきではないのか。
さらに、同項では、例によって百年一日のごときお題目「日本の安全保障努力は他国に脅威を与えるようなものであってはならない」がうたわれている。およそ国家の防衛力において他国に脅威を与えないなどということがあろうか。本来、抑止力とは「侵略あらば報復あり」という潜在的打撃力である。自虐的“本土決戦”思想に基づく「専守防衛構想」においてすら、甚大な被害を相手に予測せしめてこそ侵略を抑止できるのである。まぎらわし言い草はやめたほうがいい。
国防は他の国家機能と異なり、国家の安全を担う根源的なものである。したがって、少子化や厳しい財政事情という制約に配慮するとしても、所要量に対するいたずらな抑制は、国家のリスクに直結する。ところが、本報告書に一貫して流れているのは、まず削減、縮減ありきという考え方である。
たとえば、多機能弾力的防衛力の項で、「これまで基盤的防衛力として整備されてきた自衛隊が、災害救助・PKOに立派に従事してきている」ことをもって、今後も、規模を拡大することなく、益々増大する多様な役割を果たすことができるがごとき見解が述べられている。これは、実情を知らないシロウトの戯言に等しい主張である。
国際貢献ひとつを見ても、イラクなどに派遣されている何倍もの人員が同活動に携わっているのだ。多機能弾力的防衛力構想とは、諸状況に柔軟に対応するための防衛力の整備だと捉えては騙されることになる。本音はスクラップ・アンド・ビルドによる削減構想なのである。
第三部「防衛力のあり方」でも、「本格的侵攻に備えた中核的な戦闘力については、不確定な将来への備えとして、適切な規模の基盤は維持しつつ」としながら、「思い切った縮減を図る必要がある」と論理が反転する。国防の中核的役割を考えるなら、適切な規模の基盤の維持こそが主眼であるはず。せめて「中核的な戦闘力は、現在の情勢を踏まえて、その規模を適切に見直したうえで、国家の基盤として維持していくべき」とすべきであった。
我が国の主権・生存・独立にとって喫緊の脅威のひとつは、北朝鮮の特殊部隊である。一九九六年九月、北朝鮮の特殊部隊が侵入したカンヌン事件で、僅か二十六名の特殊部隊を掃討するため、韓国陸軍が六万人を約五十日間にわたって投入せざるをえなかった事実を忘れてはならない。
懇談会メンバーでもある財務省OBが、本年夏、外部での講演後の質疑で、陸上自衛隊の縮小を主張した。本報告書に一貫する防衛力削減の考え方が、財務省主導ではないかといわれるゆえんである。ついで本年十月九日、一部全国紙が、政府方針として陸上自衛隊の定員四万人削減を突如として報じたが、自民党国防部会の防衛政策検討小委員会で、その根拠が厳しく問われたのは当然である。
ちなみに、自民党国防部会・防衛政策検討小委員会は、本年三月三十日の「提言・新しい日本の防衛政策」で、陸上防衛力について、「任務の多様化を考慮し、国際活動を含む多様な事態に即応できる能力を有する部隊の創設や増員の可能性を含む適切な人員規模・部隊配置について検討することが必要」と述べている。これが常識というものであろう。
自虐的「専守防衛」思想の枠内にとどまる
冒頭で述べたように、本報告書には幾つかの画期的な前進がある。しかし、事の重大性からして、やはり躓きや綻びを指摘せざるをえないのである。
そのひとつは、弾道ミサイル攻撃への対応問題である。第二部、1に緊急事態対処の項があるが、そのなかで、「発射から着弾までの十分程度の間(北朝鮮のミサイルの場合・筆者注)に閣議を開いて対処方針を決めるのは、きわめて難しい」として、ミサイル迎撃命令に係る、従来の防衛出動下令規定や総理権限の見直しの必要性を示唆し、また迅速適切な対応ができるような現場への権限配分等につき早急に検討して結論を出さねばならないと述べている。このことは、従来からの防衛政策上の重大な懸案事項に明確に踏み込んだという点で大いに評価したいが、第三部「防衛力のあり方」では、ミサイル防衛に係る策源地(敵基地)攻撃能力保持について、「費用対効果や周辺諸国に与える影響等も踏まえ、総合的に判断すべき」と、腰砕けになってしまった。周辺諸国は既に、我が国を射程距離に入れたミサイルを配備して恫喝しているではないか。にもかかわらず、彼らに配慮するというのである。
この問題に関し、昭和三十一年、画期的な国会答弁が行われた。
「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨だとは、どうしても考えられない。…誘導弾等の攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思う」(衆院内閣委、鳩山一郎総理答弁・船田中防衛庁長官代読)
しかし、同三十四年には早くも後退する。
「しかし、このような事態は今日においては現実の問題としておこりがたいのであって、…平生から、他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような武器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない…」(衆院内閣委、伊能繁次郎防衛庁長官答弁)
さらに、昭和四十五年の防衛白書に初めて正式に記述され、後に定着した「専守防衛」構想が、ミサイル攻撃に対する抑止・反撃能力の放棄を決定づけてしまった。何しろ、「防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することはできない」、「相手国の基地を攻撃するような兵器を装備することはできない」というのだから、国家・国民の安全を無視した薄気味悪い自虐ぶりには、ただただ呆れる他はない。
我が国の自衛権と集団的自衛権の保持は、国連憲章やサンフランシスコ講和条約でも認められているし、現行憲法でも自衛権の保持は否定されていない。しかも、自衛権については、それが行使されるエリア、自衛力の質や量について何らかの国際法上の制限規定があるわけではない。憲法九条の解釈→最小限の自衛力→自虐的「専守防衛」、この悪しき循環を、本報告書は断ち切って欲しかった。
ミサイル防衛について、本報告書は「海自のイージス艦、空自のパトリオット、バッジシステム等を活用」というが、そういった迎撃体制だけで飛来するミサイルをすべて撃ち落とすことは不可能だし、全土をカバーするためには膨大な費用がかかることを勘案すれば、抑止力としても、策源地攻撃能力の保持は不可欠だ。
前述したように、本報告書ではミサイル攻撃など緊急事態への対応として、総理権限の強化などの必要性を述べ、さらに、内閣官房が充分な企画立案機能や危機対処機能を有する必要性も強調している。緊急事態に際しては、政治の中枢、なかんずく総理官邸の機能強化は不可欠だ。
同じ問題意識から前述・自民党提言は、総理の補佐機能強化として防衛庁出身の総理秘書官、自衛官の副官の設置、また統合幕僚長の助言機能等をあげた。統幕長については、安保会議への常時出席を法律上明記することも提言している。緊急事態に際して、軍事専門家の知見を活用するのは当然だ。ましてや、官邸スタッフは諸官庁出向組の寄せ集めなのである。ところが、本報告書にはその視点がごっそりと欠けているのだ。
同じ項で、報告書はシビリアンコントロールの重要性を強調している。しかし、今日、問題になっているのは、防衛政策の根幹を損ないかねない過度な制服組排除のシステムなのである。総理官邸に軍事専門家が少ないことだけでなく、防衛庁においても、長官を補佐する防衛参事官が内局(背広組)幹部のみで占められている点、また内局と自衛官の役割分担の見直しが課題になっているのだ。シビリアンコントロールとは、背広組の事務官が制服に対して優越することではない。政治による軍事の統制、即ち選挙で選ばれた政治家の決断が軍人に優越することを意味しているのである。
くわえて、これまたかねてよりの懸案、防衛庁の省昇格問題はどうか。安全保障会議の機能強化の項のなかで、「国防組織のあり方については…諸外国の例なども参考としながら議論していくべきである」と極めて遠まわしに触れているだけである。あの任務、この任務と仕事だけはたっぷり押し付けているくせに、ずいぶんトボケた話だ。
集団的自衛権について、自民党提言は、「日米安保体制の実効的対応の確保や国連の集団安全保障への参加等広範な国際協力の途を切り開くことが必要となってきており、集団的自衛権の行使を可能としなければならない状況にきている」とし、そのためには、「憲法改正、政府の解釈変更、新たな法律の制定による合憲の範囲の明確化、国会の決議等が考えられる」と選択肢まで提示した。
この問題について本報告書は、付言「更に検討を進めるべき課題−憲法問題」のなかで、こう述べている。
「個別国家の持つ集団的自衛権の問題と国連が行なうPKOや集団的措置の問題はそれぞれ別個のものとして整理して論ずべきとの意見もあった」「集団的自衛権の行使に関連して議論されるような活動のうち、わが国としてどのようなものの必要性が高いのか、現行憲法の枠内でそれらがどこまで許容されるのか等を明らかにするよう議論を深め、早期に整理すべき」
ひとつの前進ではある。しかし、どうやら限定行使の線を考えているようだ。“整理”の結果、限定が過ぎると、流動し変化する国際安全保障環境に、またしてもついていけない事態になりかねない。そもそも今日の国際社会では、国家に対して等しく個別的自衛権と集団的自衛権が付与されているにもかかわらず、「集団的自衛権を保有しているが、行使は憲法上、許されない」という妙な解釈を政府が従来してきたのである。行使する状況をあらかじめ限定するのではなく、いつ、いかなる時に行使するかは、主権国家としての選択、判断によるとするのが、本来の姿ではあるまいか。
→つづく
【略歴】米田建三氏 昭和二十二年(一九四七年)、長野県生まれ。横浜市立大学商学部卒。徳間書店に入る。代議士秘書、横浜市議を経て平成五年の衆議院選挙で初当選。当選三回。同十四年十月、小泉改造内閣で内閣府副大臣。拉致問題にも精力的に取り組んできた。同十六年一月から現職。安保政策・国際関係論の講座を担当。
「正論」平成16年12月号 論文
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「正論」平成16年12月号
http://www.sankei.co.jp/pr/seiron/koukoku/2004/0412/ronbun1-3.html
「真の脅威」中国に目を向けない新防衛大綱の行方(3)
帝京平成大学教授 米田建三
《「安全保障と防衛力に関する懇談会」 報告書骨子》
第一部 新たな日本の安全保障戦略
1、21世紀の安全保障環境
9・11以降、テロリストのような非国家主体などによる複雑多様な脅威に対処しなければならない時代へ。
2、統合的安全保障戦略
日本の安全保障を確保するためには、二つの目標(日本防衛、国際的安全保障環境の改善)を、三つのアプローチ(日本自身の努力、同盟国との協力、国際社会との協力)で実現する「統合的安全保障戦略」が必要。
3、多機能弾力的防衛力
少子化や厳しい財政事情などの制約も踏まえ、情報機能を強化するとともに、教育・訓練・整備計画等を改革し、防衛力を弾力的に運用することによって、多様な機能(テロ対処、弾道ミサイル対処、国際協力等)を発揮できるよう、「多機能弾力的防衛力」を追求。
第二部 新たな安全保障戦略を実現するための政策課題
1、統合的安全保障戦略の実現に向けた体制整備
弾道ミサイルへの対応等における迅速・的確な意思決定の仕組みの整備、情報の収集・分析能力の一層の強化、内閣の頭脳に当る安全保障会議の機能の抜本的な強化等が必要。
2、日米同盟のあり方
米国との戦略対話を通じて、日本の独自性をも踏まえつつ、主体的に日米両国の協力と役割分担のあり方を明らかにしていくことが必要。
3、国際平和協力の推進
政府全体として統合的に国際平和協力に取り組むため、各組織の連携強化、国際平和協力の自衛隊の本来任務化、一般法の整備の検討などが必要。
4、装備・技術基盤の改革
武器輸出三原則については、弾道ミサイル防衛の進捗等を踏まえ、少なくとも同盟国たる米国との間で、武器輸出を緩和すべき。その際、見直しの範囲については、国際紛争の助長を回避するとの基本理念を尊重しつつ、過去の経緯などを踏まえて検討する必要。
第三部 防衛力のあり方
1、防衛力が果たすべき役割と保有すべき機能
(1)日本防衛のための役割と保有すべき機能
大規模な武力侵攻への対応から、弾道ミサイル、ゲリラや特殊部隊による攻撃、大規模なテロなど新たな多様な脅威への対応に重点を移し、規模を拡大することなく、即応性を一層高めた防衛力の体制を構築。
(2)国際的な脅威の予防のため必要な役割・機能
国際社会の要請に迅速に応えて国際平和協力活動に参加し得る体制を構築。
2、新たな防衛力の体制
(1)新たな防衛力の構築に当っては、少子化や財政難などの制約要因を考慮し、重点的な資源配分等に留意。
(2)陸・海・空防衛力については、これまでの体制を見直し、戦車、火砲、護衛艦、航空機などを縮減・効率化する一方、全体として機動力、輸送力等を向上。併せて、統合の推進、ミサイル防衛システムの整備、情報機能の強化、適切な人事施策の推進を図る。
第四部 新たな「防衛計画の大綱」に関する提言
「国防の基本方針」の考え方をも包含する新たな安全保障戦略を示すものとする必要。
付言 更に検討を進めるべき課題−憲法問題
懇談会の提言は、憲法の枠内でまとめたもの。今後は、集団的自衛権などの憲法問題について、幅広い視点から議論されていくことが期待される。
【略歴】米田建三氏 昭和二十二年(一九四七年)、長野県生まれ。横浜市立大学商学部卒。徳間書店に入る。代議士秘書、横浜市議を経て平成五年の衆議院選挙で初当選。当選三回。同十四年十月、小泉改造内閣で内閣府副大臣。拉致問題にも精力的に取り組んできた。同十六年一月から現職。安保政策・国際関係論の講座を担当。
「正論」平成16年12月号
- 理不尽な行動には必ず反論を
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2007.02.07 Wednesday正論 平成16年4月10日
http://www.sankei.co.jp/seiron/koukoku/2004/0410/opi2.html
「日中関係を考える」
理不尽な行動には必ず反論を入選 川上英彦(横浜市・無職)
中国は建国五十年の新興国であるが、現在の世界では数少ない共産党の一党独裁国である。彼らはあるときは、わが国は十三億の人口を抱えた発展途上国であると言い、またあるときは世界の主要都市をその射程圏においたミサイルと核兵器を保有し、有人宇宙船を打ち上げた軍事大国としてその存在感を世界に示すこともしばしばである。この人口で日本の十倍、国土面積二十六倍の巨大な国と日本は今後どのように付き合って行くべきであろうか。
≪急激な経済発展 社会に歪みも≫
先ず中国の現状認識であるが、中国の発展は著しく、GDP(国内総生産)は現在の為替レートで約一六〇兆円、わが国の四分の一である。そしてその伸び率は最近若干鈍化してきたが、それでも8〜9%と大変高い数値を維持している。しかし、人件費は日本の二十分の一〜三十分の一であり、奥地からの低賃金労働者の補充が容易であることを考えると、当分の間この人件費格差は維持されるものと考えねばならない。これに眼をつけた世界各国のメーカーが先を争って工場を移設し、いまや中国は世界の工場と言われるようになった。
ところで、世界の工場としての製品の実力はどうか。過去の技術の蓄積がほとんどない中国は先進諸国から製造設備と製造技術の全面的な導入により急速に技術レベルは向上し、製品の品質管理も以前に比べて格段に向上して、現在では日本国内で販売されている衣料品はもとより家電製品、電子機器などかなりの部分が中国製品で占められるようになっている。しかし、急激な経済発展の歪みが大きな社会問題としてクローズアップされてきた。それは沿岸の経済発展著しい地域と奥地との経済格差および経済発展地域内での貧富の差の拡大による拝金主義の蔓延と、落ちこぼれ民衆の増大による社会不安の可能性である。
ここで政治の現状について考えてみよう。トウ小平氏の改革開放政策以降二十年の間にソ連の崩壊を見ながら、自由経済への移行に向かって徐々に舵を切り、歪みは出ているものの、ある程度成功しつつあるように見える。一方で、一党独裁を脅かす恐れのある思想信教の自由、結社の自由、表現の自由などは著しく制限されており、この点で民衆の不満は相当なものであると思われる。これは最近の香港における五十三万人の民主化要求デモに現れており、民衆の不満は限界に来ているのではないか。不満をかわすために目を外に向けさせるのは独裁者の常套(じょうとう)手段であるが、江沢民政権以降反日行動が年を追ってかしましくなっている。戦前の日本及び日本人をよく知っていた戦前派のトウ小平氏までは何の問題もなかったが戦後派は日本人の必要以上の贖罪(しょくざい)意識による謝罪外交をみて、反日は対国内政策として利用価値が極めて大きいと考えたのである。
このような中国に対して、日本の取るべき道を考えてみたい。いずれ崩壊するものと期待するにしても当面の最重要課題は共産党政府への対応である。対応策は靖国問題、尖閣諸島問題、調査船の不法活動など理不尽な行動が発生する度に、必ず間髪をいれず反論してゆくことしかない。場合によっては実力行使も躊躇すべきではない。しかもそれは世界の世論を味方につけるように国連機関等に提訴すると共に世界のマスコミ対策も絶対に必要である。情よりも理を求める海外の世論を味方につけるための長期戦略と理論武装を常々怠ってはならない。
中国経済を支える技術力は、戦前からの技術の蓄積の上に戦後欧米から導入した技術を改良して今日を築いた日本とは大きく異なっている。従って中国においては現在以上の技術的改良品を生み出すことは大変難しいと考えられる。また、先に述べたように拝金主義が蔓延していることにより、先行投資による技術開発を行う発想が極めて起こりにくい環境にある。日本では日本人のもつ生真面目さ、一途さ、拘(こだわ)り、器用さ、応用力など何れも日本文化に根ざすものであろうが、われわれはこれらによって技術の基礎が支えられて数々の世界一の製品を世に送りだしてきた。したがって中国に簡単に追いつかれることはないと思われる。
≪一定の距離保ち技術移転は務め≫
日本においては常に中国のみならず世界をリードする新分野の技術開発を進め、経済上の優位を保つと共に、十三億の国民の生活向上のために追撃してくる中国に対しては、一定の距離を保ちながら技術移転を行うことはむしろわれわれの務めであると考えるべきだ。わが国とは有史以前からの深い関わりがあり、日本文化に大きな影響を与えた中国とわが国は、お互い隣国として未来永劫(えいごう)に付き合って行かねばならぬ関係にある。過去の戦争についての国家間の法的関係は講和条約によって終了しており、その後の日中平和友好条約も締結されて今年で二十六年になる。お互い徒(いたずら)に過去を引きずることなく、これからは未来志向で、東アジアの平和と繁栄の為に建設的な関係を築いていきたいものである。
◇
入選して一言 「最近、中国を旅し、西安の歴史、上海の活力、北京の政治を肌で感じ、日中の未来に思いを馳せ、この論文をまとめました」
◇
かわかみ・ひでひこ 昭和7年3月香川県三豊郡生まれ。72歳。千葉工業大学機械工学科卒業。総合電気メーカーで原動機担当技師長。退社後エンジニアリングサービス会社社長。初応募で入選。
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- 軍事力背景に中国の実効支配完成
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2007.02.07 Wednesday正論
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070204/jkn070204006.htm
今回のテーマ
「米国のいない世界」
軍事力背景に中国の実効支配完成
入選 和田頼子(小田原市・主婦)
≪時代に逆行する領土拡張の野心≫
アメリカなかりせばという、非現実的な仮定によって浮かび上がるのは実に現実的な脅威としての、中国の躊躇(ためら)いのない軍事力を背景にした実効支配の完成であると思う。時代を逆行するかに見える領土拡張への野心が、制海権、制空権あるいはシーレーンや宇宙への覇権を見越した、時代に先行する戦略の勝利であったことが認識されることになると思う。経済活動からの視点においては、中国とは友好を深めるべき、魅力のある国なのかもしれない。しかし、安全保障という視点を加えれば、この国が今なお共産党の一党独裁体制を堅持する国であり、友好を育むべくもない、戻りのきかない反日教育、反日政策をなしている国であることに留意すべきだろう。また、大躍進時代における飢饉、文化大革命時における権力闘争によって何千万人もの死者を出す中においても一貫して、建国の初期からも毛沢東の掲げた戦略核への意欲、粥を啜(すす)っても核を持つのだという意志の上に発展して来た国であることも注意しなければならないことだと思う。アメリカの存在の有無に拘わらず、この国の性格は必ず表面化するものであり、現にチベットを始め、周辺アジア諸国、海域で悲劇とトラブルを起こしている。ただ、アメリカなかりせばという状況になった時に、特に私達日本人は、その性格の凄まじい強さと大きさ、そして速さに絶句することになると思う。つまり、台湾海峡、東シナ海尖閣諸島、沖縄トラフへの急進撃というものに。それを推測しうるものとして、一九八〇年代から南シナ海に展開した、ベトナムやフィリピン等の国々を制圧しての南沙諸島、西沙諸島での永久軍事施設の構築、実効支配があげられる。機会があって、西沙諸島の永興島の衛星写真を見たことがあるが、なにもない島のその一年後の写真に、忽然と二六〇〇メートルの滑走路が海へと延びているのを見たとき、背筋を這い上る恐怖を感じた。それは一党独裁体制という、反対政党、自由な言論を許さない国の決定と行動の強大かつ迅速さというものに、民主主義体制の国家は到底太刀打ちできないことを実感させるものだった。そして、このような国に多額の資金、技術を投入したこと、特に軍事転用の可能な道路や空港に投資したことを悔いる日が来ることを、確信させるものでもあった。アメリカの無い世界とは、思想、信条、言論の自由を封殺することによってのみ可能な、速い決定と行動に対する抑止力を失った世界であると思う。時に、自国の正義を普遍的な価値として他国へ介入するアメリカの姿勢に非難の声があがる。しかし、正義というようなものに国民が統合し、ためらいなく単独でも行動に出る力が、速い決定と行動に対抗する力であることを認めなければならないと思う。現在の所、この力を有する民主主義体制の国家、あるいは集団は存在しない。
パックス アメリカーナという立場、国柄や品性の悪い部分が露呈しやすい立場への批判によって、その立場に立った経験のないことによって、表出しない国の性格を見誤ってはならない。9・11以降、日本の保守層の中にも嫌米の感情が噴出した。確かに、真珠湾へとわが国を追い詰めてゆく過程、原爆や都市爆撃、占領統治下の政策というものを知れば知るほど、粟立つ思いがする。しかし、戦後約六十年が経ち、多くの研究者によって第一級の資料が提出されている現在、例えばマッカーサーの証言したセキュリティーの一語さえ教科書に載せえないわが国の、国内問題へと帰されたと思うのである。9・11の本質とは、乗っ取った旅客機に乗客を乗せたまま、人々の蝟集(いしゅう)する場に激突したということであり、アメリカが標的となったことは、アメリカと犯罪集団以外の国にとっては二義的な意味を持つものと考える。
第一義とは、この行為、支援を許すか許さないかということだろう。それは厳しく二者択一を求められるものであり、曖昧(あいまい)さは心情的な支援と見なされてしかるべきものと思う。また、それはハンチントン教授の言う文明の衝突ではなく、東京裁判インド代表パール判事の言う文明の抹殺という視点で追求すべきものだと思う。多くの戦争の惨禍を経る中で、人類が生み出した戦争のルール、野蛮から辛くも人類を救い出す戦時国際法という倫理、つまり、法と文明の抹殺であるからだ。
≪法的な正義守る各国の分担課題≫
アメリカが正義ではない。しかし、折り合えない価値観が混在する世界の中で、ようやくに生み出しえた法的な一致、法的な正義を後退させないための拘束力、制裁力をアメリカは専有するほどに持っている。その集中へと批判を向けるのではなく、志を同じくする国家が分担する力へと向けること。これが、アメリカなかりせばという仮定によって浮かび上がった課題である。
◇
入選して一言 「仮定が前提となっている論題なので、普段なら書きにくいことも、気楽に書いてしまいました。スッキリしました」
◇
わだ・よりこ 昭和30年1月東京都生まれ。49歳。青山学院大学法学部卒。集英社『すばる』編集部勤務後退職。「20世紀日本の国家像を考える」(本社主催)で最優秀賞受賞。佳作1回、久しぶりに3回目の入選。
◇
- 近未来小説「SHOWDOWN(対決)」 (4)
-
2007.02.05 Monday前回の続きです。確かに小説ですが、これを荒唐無稽と笑い捨てられない部分を感じざるを得ないことが悔しいところです。
http://www.sankei.co.jp/special/komori/showdown/sdw061021000.htm
(6)日本への核攻撃もある
【北京・中央軍事委員会 2009年7月29日】
日本人スパイ事件を担当する中国共産党政治局員は興奮していた。
「主席! 今日の裁判の開始は成功でした」
胡金涛はにこにこ顔の政治局員を抑えるように告げた。
「まだ小さな第一歩だ。欧米メディア、とくにニューヨーク・タイムズがどう報じるかをみよう」
胡主席は次に人民解放軍の海軍将官に話しかけた。
「この裁判終了の一日後から行動を起こせるようにしてほしい」
「はい、日本の航空管制網と証券取引所、政府機関のコンピューター・システムを破壊できます」
「だが同志、日本に真の屈辱を与えるには当初の計画を変え、コンピューター撹乱以上のことをしなければならない。ある程度の血を流させねばならないのだ」
「流血はどのぐらいに?」
「当面は釣魚島(尖閣諸島)の占拠を命ずる。占拠したら島に基地を建設し、すぐに島周辺に石油開発の施設を築くように」
最初の政治局員がまた発言した。
「裁判はどう終わらせますか」
「有罪判決だ。ただ日本人被告の一人は無罪とし、残りは死刑だ。日本の首相への懲罰も必要だな」
胡は別の政治局員に話しかけた。
「金正月同志への援助を増すことはできるか」
「はい、10パーセントの増加は容易です」
「金総書記にそう伝え、日本の北朝鮮への侵略を非難させよう。北朝鮮の軍隊を厳戒態勢につけ、南北境界線近くに結集させることも指示せよ」
【ホワイトハウス 同年8月2日】
国家安全保障会議のメンバーたちは静かに座り、女性大統領クラターバックの日本の首相との電話の会話を聞いていた。
「首相、米国としてはこれ以上のことはできません。米国政府の抗議はすでに駐米中国大使に伝えました」
日本の首相は自分を抑制するようにして話した。
「無実の日本国民の処刑が始まるのです。抗議だけでは困ります」
「ではなにをしろというのですか。日本の海上部隊がいま尖閣付近で実施中の軍事演習は中国を挑発するだけでなく東アジア全域を不安定にしている。北朝鮮が大部隊とミサイル戦力を動員している。正気ですか。あなたの不要な挑発が国際的危機を生んでいるのです」
「危機についてはわかっていますよ」
「北朝鮮の駐米大使が金総書記の演説の内容を予告してきました。もし日本が東シナ海で挑発を続けるならば、日本を攻撃するというのです。彼はむら気の人物です。日本への核攻撃もありえます」
「日本ほど核兵器の恐ろしさを知る国はない。私自身も長崎の近くで生まれました。だが中国当局は無実の日本国民を殺し、日本領土に侵略しようとしているのです。米国はそれを座視するのですか」
「首相、米国は無人の小島やスパイ裁判のために中国と戦争する意図はありません。みな日中両国間だけの問題です」
女性大統領は電話を切り、室内をみまわして語った。
「さあ、このくだらない危機にどう対応するか。やはり国連安保理への提訴ですね」
「そのとおりです」
国務長官が応じると、国防長官が声をはさんだ。
「米国は日本と安保条約を結んでおり、中国が尖閣を占拠すれば、日本を防衛する責務があります。そのうえ尖閣が行政上、帰属する沖縄には米軍基地があり、尖閣攻撃は米軍攻撃に等しくなります」
「では沖縄から米軍を撤退させればよい。米国は小さな島のために戦争はしません。ではこの会議も終わります」
そして大統領は報道官の女性に声をかけた。
「ジーナ、この危機についての国内世論調査のデータを早く集めてちょうだい」(つづく)
ジェド・バビン/エドワード・ティムパーレーク共著
抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久
(2006/10/21 10:00)
【メモ】中国人民解放軍の実態に切り込んだ近未来小説「ショーダウン(対決)」は米国で出版され、日本語版は来春にも産経新聞出版から刊行される予定。本欄では「日中戦争」の章を中心に同書の抄訳を紹介している。
近未来小説「SHOWDOWN(対決)」
(1)「日本を叩けばよい」
(2)「靖国参拝参拝を阻止せよ」
(3)米国は動かない
(4)中国はどこまでやる
(5)「宣戦布告に等しい」 ?
(6)日本への核攻撃もある
(7)北は韓国にも侵攻した
(8)核爆発が確認された
(9)作戦目標は北朝鮮
(10)勝つか、負けるか
- 未来小説「SHOWDOWN(対決)」
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2007.02.04 Sunday最後に説明書き記があるが、これは中国人民解放軍の実態を近未来小説として描いた「ショーダウン(対決)」という書物の中の、「2009年に中国のミサイル攻撃で新たな日中戦争が始まる」という章章を中心に同書を抄訳で紹介したもの。著者は先代ブッシュ政権の国防副次官ジェド・バビン氏とレーガン政権の国防総省動員計画部長エドワード・ティムパーレーク氏。日本語版は産経新聞出版から今年春に刊行される予定。
http://www.sankei.co.jp/special/komori/showdown/sdw061016000.htm
(1)「日本を叩けばよい」
【ホワイトハウス 2009年1月20日】
「どこの島ですって?」
新しい米軍最高司令官の大統領はいらだちを隠さなかった。前年11月の選挙に勝って米国初の女性大統領となった民主党リベラル派のドロシー・クラターバックは就任のパレードを終え、日本の首相からの祝いの電話に出ていたが、会話はぎこちなかった。
首相の声は珍しく感情をあらわにしていた。
「尖閣諸島ですよ、大統領。沖縄の近くにあり、周辺に豊かな油田やガス田があります。日本領土ですが、中国が領有権を主張しています」
「その島のなにが緊急なのですか」
「はい、尖閣諸島の至近海域で中国海軍がロシア軍の支援を得て、大演習を始めました。中国は武力で尖閣を占拠しそうなのです」
「わかりました。こちらも検討しましょう。数日後にまた話しあいましょう」
女性大統領は電話を切ると、そばにいたCIA(中央情報局)長官らに顔を向けた。長官らは前共和党政権のメンバーで、数日後にはもう職を離れることになっていた。
「中国側が今夜の私の就任祝いパーティーの前に軍事攻撃をかけることはないでしょう。私の新政権は中国とことを荒立てる方針はない。中国は必ず責任ある道を選ぶでしょう。もうこの件ではなにも報告しないでください」
CIA長官が反論した。
「大統領、いや中国はあなたの出方をテストしているのです。前大統領が就任後、まもなく米軍の偵察機が海南島で強制着陸させられたことを覚えていますか」
「中国がなにを求めているのか、私はよくわかっています。前政権はそれがわからなかった。私は選挙戦を勝ち抜いたのと同じ方法でうまくジャップと中国人とを扱いますよ。まあ、みていなさい」
【北京・中央軍事委員会 同年6月1日】
軍事委主席の胡金涛は人民解放軍の幹部の将軍連に問いかけた。
「人民を団結させ、党や国家への忠誠を高める最善の方法はなにか」
将軍の一人が答えた。
「中国人は誇りの高い民族です。人民が国内の失業や貧困から目をそらし、自国への帰属意識を高めるには周辺諸国を従属させ、中国の覇権を誇示することです」
他の将軍が反論する。
「しかし周辺諸国と戦争をするわけにもいかないでしょう」
「いや、戦争ではない方法で一国を屈服させれば、他の国にもドミノ効果がある」
胡が口をはさむ。
「そうか、一国を服従させれば、他の国もその例に従うわけか。だがその一国をどこにするか。実質的なパワーと象徴的な重要性を持つ国でなければならないが」
人民解放軍の総参謀長がおもむろに答えた。
「日本です」
胡がすぐに同意した。
「そうだ。日本だ。日本を叩けばよい。日本を軍隊で侵略する必要はない。歴史問題で叩いて、天皇に中国への侵略について公式謝罪をさせる。そうすれば中国人民の誇りや民族意識は急速に高まるだろう。日本に屈辱を与え、服従させるための具体的な計画を3日以内に提出するように」(つづく)
ジェド・バビン/エドワード・ティムパーレーク共著
抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久
(2006/10/16 10:00)
【メモ】来春にも日本語版刊行 中国人民解放軍の実態を近未来小説として描いた「ショーダウン(対決)」という書が米国で刊行された。著者は先代ブッシュ政権の国防副次官ジェド・バビン氏とレーガン政権の国防総省動員計画部長エドワード・ティムパーレーク氏で、レグネリー社刊。日本語版は来春にも産経新聞出版から刊行される。中国が戦争を始める展望がフィクションとして書かれるなかで「2009年に中国のミサイル攻撃で新たな日中戦争が始まる」という章がある。その章を中心に同書を抄訳で紹介する。
- 東シナ海のガス田問題 日中平行線、解決には政治判断
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2007.02.04 Sundayhttp://www.sankei.co.jp/seiji/seisaku/070131/ssk070131000.htm
東シナ海でガス田の開発を進める中国のプラットホーム(撮影・矢島康弘)
東シナ海のガス田開発問題で、日中両政府は共同開発による解決を目指すとしているが、主張の隔たりは大きいまま。政府間で「法律」「技術」「危機管理」の3分野で事務レベルの専門家会合を立ち上げ、対立解消を図りたいところだが、歩み寄りは難しそうだ。(政治部 大谷次郎)
1月25〜27日、中国・北京などで開催した外務省の谷内正太郎事務次官と中国の戴秉国外務次官の総合政策対話。谷内氏はガス田開発問題について「もっとスピードをもって話し合う必要がある」と指摘したが、戴氏は「問題の重要性は分かっている」と応じるだけだった。
これに先立ち、両政府は12日、ガス田問題に関する「法律」分野の専門家会合を北京で開き、共同開発に向けた境界線画定問題などを協議した。
日本の立場は、双方の海岸から等距離に日中中間線を引き、その東側が日本の経済的主権が及ぶ排他的経済水域(EEZ)にするというもの。しかし中国は中間線を否定し、南西諸島西側の沖縄トラフまでを中国大陸が形成する大陸棚だとし、そこまでの権益を主張している。
この会合で、日本は「大陸棚は南西諸島海溝まであり、両国が共有している」と念を押し、国際司法裁判所などの判例を示して「等距離原則の適用が妥当だ」と指摘したが、中国側は従来の立場を崩さなかった。
中国は1990年代から東シナ海の海洋調査を活発化させ、2000年代に入ると中間線付近の白樺ガス田などの開発に着手した。これらは、中間線をまたいで地下で日本側とつながっているため、日本側は「日本の地下資源が中国にストローのように吸い上げられる」と、開発中止を強く求めてきた。
政府間で局長級の協議を重ねた結果、共同開発による解決を目指すことを確認したが、日本が白樺など4つのガス田の共同開発を求めたのに対し、中国は尖閣諸島付近海域での開発などを逆提案してきたため、平行線をたどっている。
今回、課長級の専門家会合を立ち上げたのは、「互いの理解を深化させる」(交渉筋)狙いだが、実態は協議を継続させるための苦肉の策といえそうだ。
両政府は2月中に「技術」「危機管理」両分野の会合を開くため調整を急ぐ。「技術」会合では、石油・天然ガスの埋蔵量、性質などの調査や、具体的な共同開発の手順など協議。「危機管理」会合は、問題解決までに海域で「不測の事態」が生じるのを避けるための連絡体制などを検討する。
もっとも、日本側には「双方の言い分は言い尽くしており、あとは政治決断での解決しかない」(政府関係者)と、事務レベル協議には限界があるとの指摘もある。
(2007/01/31 08:24)